ペンを求めて三千里②

ペンを求めて三千里(続編)

 

(前回の文集の続きです。)

相変わらず休日の地方文具店へ

「万年筆のお宝探し」に出かけている内に、

どうも同じ様な行動をしている人が

増えている事に気づきました。

お店のご主人から

「最近、あんたと同じ目的で来た人がいたよ。」

「この間も・・・」と言われる事が多くなりました。

「これは困った!こんな人達が多くなったら大変だ!」

と不安な気持ちで、

北ペン倶楽部の会合へ出席して、

メンバーに相談してみると、

何とメンバーの数人が

同じ行動を取っていたのです。

「それなら今度は一緒に行こう!」

「みんなで行けば、怖くない。」

ということになり、

作戦計画を立てていたところ、

ちょうどその時に、東京のメンバーから

「瀬戸内海の因島にたくさん文房具屋があり、

昔のままの状態だ。」

という情報が飛び込んできました。

因島?」「それは何処?」

「チョッと遠いんでないかい?」

・・・沈黙状態が続き・・

「でも、手付かず状態で、いっぱいあるっていうし・・」

セーラー万年筆の工場も近いし・・・」

またまた、沈黙の時間三分・・・

「まあ~とりあえず、行ってみっか?」・・・

暗黙の了解の目配せ有り 

そして、予定の日は近付き、計画は決行されました。

北ペン倶楽部の有志が念願の「セーラー万年筆呉工場」を視察し、

戦艦大和ミュージアム」を見学した後、

表向きの目的とは少し違った作戦が開始されました。

尾道から「しまなみ街道」で海を渡り、

やって来ました「因島」。

普通の観光団体は「村上水軍ゆかりの地」

本因坊誕生の地」等の名所を訪ねるのですが、

このグループは観光地には目もくれず、

地図を片手に文房具店巡りです。

古い木造校舎の小学校を発見し、

「いい造りだねえ~」と感心している

メンバーの目線は向かいの文具店、

色あせた布のひさしが入り口を覆い、

「一見何の店か判らない処が良い。」と言う事で、

目標の店の入り口へ立つと、

ショーウインドーの中が埃にまみれて、

飾ってあったルーペが下に落ち、

奥では店番のおばあちゃんが居眠り・・

と好条件が揃い、

メンバー全員の目がらんらんと輝き始めました。

チームワークの手はず通りに、

一人がノートやルーペの話から入り、

最年配者がおばあちゃんと世間話をし、

他のものが二手に分かれ、

店内の奥のショーケースを探索、

「ここに在りそうだと」という合図が出たとたん

「このケースの中の万年筆を見せてくださ~い。」

この一言で、おばあちゃんの様子が変化した。

めったに来ない客が、

それも大人の男性ばかりが5人も店を占拠している、

店にとっては非常事態だ。

不安になり、近所の親戚にでも連絡をしたか、

すぐに電話をかける行動に出た。

たちまち、不在にしていた店のご主人や、

娘さんも登場する事となった。

狭い店内が、総勢十人近くの人で埋まった。

我々の要望に対して、様々な障害物を掻き分け、

(店奥は普段使わないので、ダンボール箱等で埋っている場合が多い)

埃を被った奥のショーケースに辿り着いたご主人が、

「このケースは随分と開けていないので、開くかなあ~」

我々の期待は膨らむが、

反対にご主人は面倒くさそうに呟きながら鍵を回すと、

「こりゃあ、鍵が錆びてて動かないぞ。」

ここで空かさず、メンバーの一人が

「自転車の油とか、クレCRCとか、使えば大丈夫ですよ!」

などと巧みな誘導で、しぶしぶながらのご主人に、

無理やり開けてもらったケースの中には、

メーカーの小箱に詰まった万年筆が続々と現れました。

どれもほぼ未使用で、試し書き程度の極上品ばかりです。

まるで宝の山を掘り当てた時の様な興奮が、

メンバー一同に感じられました。

しかし誰一人として、

手放しでその喜びを声にする者はいません。

さすがに、日頃の訓練で鍛えられている精鋭部隊の面々は、

次の場面に入った状況を、全員認識していたのです。

買い付け交渉の始まりです。

「折角出してもらったけど、このシルバーの万年筆は、

かなり錆ているな~」

「この種類はたくさんあるけど、今じゃ買う人は少ないでしょう」

「せっかく、いっぱいあるけど、もったいないね~」

などと、相手の心理を揺す振る言葉が、

飛び交い始めるのでした。

反対に、今まで警戒をしていた店側のチームは、

ここまで来たら、この際めったに来ない、

高額商品を買ってくれそうな客と認識したらしく、

「お客さんたちは、はるばる遠くの北海道から来てくれたし、

万年筆がお好きなようなので、特別に割引をしましょう!」

ということになり、形勢はたちまちに逆転し、

買い手市場になったのです。

各人好みの万年筆を手に取り、

夫々交渉の結果は大満足だったようです。

しかし、全員顔の表情には出さず平静を装い、

無事買い物を終了しました。

店を出た一同は、尚も用心深く、

店からかなり離れた場所までその喜びを我慢して、

やっと安全圏まで来たという確信を得られた処で、

お互いの健闘を讃え、大喜びで狂喜乱舞致ししました。

こんな事をしている人達は素直では無い、

人間性に問題が有ると誤解されそうですが、

実はこういうやり方をしないと、後の人が困るのです。

店の人にとっては、むかし高価で仕入れた万年筆が、

今でも定価で売れるとなると、

中々手放したく無くなるものです。

そうすると、代替わりした時に後を継ぐ若い人は、

逆に、売れない在庫として廃棄処分をし兼ね無いのです。

日の目も見ずに、使用されないままでは、

万年筆がかわいそうです。

年代も経て、確実に劣化している物もあります。

是非在庫をまだ抱えているお店のご主人達には、

店先のショーウインドに並べて下さい。

それが我々の希望です。

また売って戴いたお店には、感謝のお返しとして、

我々は「山菜採りルール」を適用させて頂いております。

気に入った万年筆がたくさん有っても、全て買占めはしない。

同じ目的で後日来た人にも、楽しみを残しておくのがマナーです

(大金を持っていたら分りませんが)。

こうして、「万年筆探索の旅」は続くのでした。まだまだ続く・・

ペンを求めて三千里①

ペンを求めて三千里

 

ある日突然、変な考えに憑りつかれた。

古い万年筆に興味を持ってしまったのだ。

古いと言っても、アンティークの分野ではなく、

20~30年前なら、ごく当たり前に売っていた品だ。

ところが現在は廃番になっていて、製造してない。

市内の文具店にも置いてないし、

メーカーに問い合わせても見つからない。

となると、逆にどうしても欲しくなる。

 

だんだん探す範囲も広くなり、

田舎町まで、歩き回る羽目になってしまった。

片田舎の街で、古くから商売している文具屋さんなら、

少々埃を被ったままでも、

私が探しているペンが、

今でも眠っているかも知れない

いや、きっと私を待っているはずだ。

と思い込み、

知らない街を歩いてみたい

何処か遠くへ行きたい

の歌を、口ずさみつつ、

もうじっとしていられない。

週末になると、古いペンとの「出逢い」を求めて、

男は、ロマンの旅に出る。

 

しかしそんな私の前に、大きな問題が立ち上がった。

サラリーマン生活をしている私の休日は、

隔週の土曜日と日曜日のみで、

私が目指している地方の文具屋は、

休みで有ることが多いのだ。

 

必然的に、チャンスは土曜日しかない。

だから貴重な土曜日には、朝早く家を出る。

雨が降ろうが、嵐が来ようが、決意は固い。

何もそこまでやらなくても、

と思う人は多いだろうが、

実は経験した人にしか解らない

楽しみがあるのだ。

 

私は旅に出る時の準備として、

目的地の電話帳を調べ、

文具店の場所を地図にマーキングする。

なるべく効率的に、ローラー方式で攻めていくのだ。

しかし、その成果はというと、極めて低い。

万年筆を店頭に並べている店は、

マーキングした店の、半分位しかない。

しかも、昔の万年筆を置いてある店は、

その内の一割位の確立である。

従って、全体的には、5%の確率に賭けて、

歩き回ることになる。

無駄足にならない様に、

前もって電話で確認して行く時もあったが、

探している万年筆の感じが、良く伝わらない為、

結局、全部歩いて回る事にした。

やってみると、やはり現実は厳しい。

 

店主とのやり取りの典型的なケースは、

「すいませ~ん・・・

昔の万年筆を探しているんですが、

20~30年まえぐらいの物ありませんか?」

「万年筆ねえ~、昔はいっぱい有ったんだけど、

今は使う人が少ないから・・・」

「趣味であつめているんです。

もし何処かに残っていたら、見せてくれませんか?」

「一年前に整理して、古い奴は捨てちゃったよ。

もう少し前に、来てくれれば、良かっただけど。」

という会話が、ほとんどだ。

行く先々で、この会話の繰り返し、

途中で、空しくなることも多いが、

自分を元気づけて、旅は続く。

 

そしてついに、

飛び込んだ店先のショーケースに、

求めていた万年筆を発見。

その時は嬉しくて、

思わず「やった!」と叫びたくなる。

すぐさま、昔の定価で買い求め、

幸せな気分に浸っていると、

皮肉な事に、

「幸せと苦しみは、共にやって来る」

の言葉通り、

次に寄った店でも、

また別の逸品が見つかってしまうのだ。

 

既に所持金の大半を使ってしまった為、

その残りは少なく、

苦境に立った私は、

店の主人の心理を分析し、戦略を練った。

「最近、万年筆の需要は少なく、

年々売れ難くなっている。

もし売れるなら、半額でも売ってしまおう。

こんな変人でも現れない限り、

今後も絶対に売れない。

この機会を逃す手は無い。」

と考えているはずだ。

だから、私は歓迎されている。

これを買って、仲間に見せなければならない。

万年筆の神様がくれたチャンスだ。

私は万年筆文化を守り、その伝道師だ。

「求めよ!さらば、与えられん!」

と勝手な推測をして、切り出した。

「この万年筆、付いてる値段で、良いですか?

(小心者は、心で決めていても、口から出る言葉は

つい、消極的になってしまう。)

 

長年商売をしてきた、苦労人のご主人は、

「あんたは遠くから来たみたいだから、

二割り引きで、良いよ。」

と言ってくれたので、この言葉に勇気付けられ、

思い切って

「そうですか。こちらの一本もいいな~

二本かうので、半額でどうでしょう?」

と言うと、相手は少し沈黙して、考えてから、

「分かった。あんたは万年筆が

好きそうだから、それで持って行きな。」

と言ってくれた。

こんな幸福な結末を得られる事もある。

 

この戦法も、時と場合、

主人の性格にも、寄る処が大きい。

しかし、一概には言えないが、

古い万年筆を残しているお店は、

その主人も実は、万年筆好きなのだ。

そして、万年筆好き同士の気持ちは、

通じ合うものなのだ。

 

毎週こんな旅を続けている内に、

たまには、良いこともある。

偶然入った、看板が傾きかけた文具店、

店番はおばあちゃん一人。

ホコリに埋もれたショーケースの

片隅に、探し求めていた万年筆を発見。

値札も取れていて、いくらか分からない。

相手も値段を忘れていて、

「一本千円で良いよ。」

と言ってくれたので、

有難く何本か買わせて頂いた。

店を出た時、思わず手を合わせた。

このモンブランの二桁代が、完品なら、

相手の気が変わらぬ内に、

少しでも、遠くに、逃げたくなり、

自然と、足も速くなる。

かなり遠くへ来てから、ホッとして、

先程購入した万年筆を取り出して、

万年筆の神様に感謝してから、

ニッコリとして、品を確かめる。

これが有るから、止められない。

今週もまた行こう!今度は・・・

と、私の旅は続くのである。

 

万年筆の魅力

新たにブログを始めました。

15年前まで「とあるブログ」に、万年筆について書いてましたが、閉鎖されることになり、それ以来の久しぶりの記事掲載です。

私は中学入学時に、親戚のおばさんに万年筆を貰って以来、半世紀以上万年筆を使い続けています。頂戴した万年筆の他、出版社の年間購読を申込んでもう1本(確か、旺文社は中一時代、学研は中一コース)この2本から始まりました。両親からもらった腕時計と、胸ポケットに差す万年筆で、何故か大人になった様な気分がして、自分なりに満足していました。

当時の万年筆は学生向けにはミニサイズ、ポケットサイズが流行で、3大メーカー(セーラー、プラチナ、パイロット)が、其々個性のある製品を競って販売していました。

中でも「プラチナ万年筆」は、日曜夜のゴールデンタイムに、テレビで歌謡番組のスポンサーをしており、メイン司会の「フォーリーブス」が「♬僕の日記、プラチナ・・

愛の手紙、プラチナ・・誰にも言えない言葉・・♬)の曲は今でも良く覚えています。

また「セーラー万年筆」は18金のペン先を強調し「エイティーンゴールド・セーラーミニ」と伝えた後、きらりと光るペン先の映像を流す宣伝も忘れられません。そして「パイロット万年筆」はこの時、衝撃的な世界初のノック式万年筆「キャップレス」を販売していました。同時期の大橋巨泉の「ハッパふみふみ・・」の宣伝の「エリートシリーズ」も忘れられません。

今思うと、私の万年筆の蒐集癖は、この頃から始まったのです。

パーカーヂュオフォールド・ニブコレクション

その後、学生時代が過ぎ、バブルの時代の後半に就職して、24時間戦えますか?

の時代を駆け抜け、北海道に移住して、やっと自分の時間が持てるようになりました。すると「小人時間を悪と成す。」の例えの様に、昔から少しづつ集めていた万年筆を手入れするだけでなく、また集め始める事になりました。調度この時代はワープロとボールペンが最盛期で、万年筆が使われなくなり、大型スーパーの進出で、文房具屋の閉店が多くなりつつ有り、閉店セールも多かったのです。

定価の半額や、投げ売りでゲットした逸品も多く、これに味を占め、古くから営業してして、間もなく閉店しそうなお店を探し歩く事になりました。

その時の心境を綴ったのが「ペンを求めて三千里」です。

少々恥ずかしさも有りますが、次回のブログで紹介します。

乞うご期待!