ペンを求めて三千里(続編)
(前回の文集の続きです。)
相変わらず休日の地方文具店へ
「万年筆のお宝探し」に出かけている内に、
どうも同じ様な行動をしている人が
増えている事に気づきました。
お店のご主人から
「最近、あんたと同じ目的で来た人がいたよ。」
「この間も・・・」と言われる事が多くなりました。
「これは困った!こんな人達が多くなったら大変だ!」
と不安な気持ちで、
北ペン倶楽部の会合へ出席して、
メンバーに相談してみると、
何とメンバーの数人が
同じ行動を取っていたのです。
「それなら今度は一緒に行こう!」
「みんなで行けば、怖くない。」
ということになり、
作戦計画を立てていたところ、
ちょうどその時に、東京のメンバーから
「瀬戸内海の因島にたくさん文房具屋があり、
昔のままの状態だ。」
という情報が飛び込んできました。
「因島?」「それは何処?」
「チョッと遠いんでないかい?」
・・・沈黙状態が続き・・
「でも、手付かず状態で、いっぱいあるっていうし・・」
「セーラー万年筆の工場も近いし・・・」
またまた、沈黙の時間三分・・・
「まあ~とりあえず、行ってみっか?」・・・
暗黙の了解の目配せ有り
そして、予定の日は近付き、計画は決行されました。
北ペン倶楽部の有志が念願の「セーラー万年筆呉工場」を視察し、
表向きの目的とは少し違った作戦が開始されました。
やって来ました「因島」。
普通の観光団体は「村上水軍ゆかりの地」
「本因坊誕生の地」等の名所を訪ねるのですが、
このグループは観光地には目もくれず、
地図を片手に文房具店巡りです。
古い木造校舎の小学校を発見し、
「いい造りだねえ~」と感心している
メンバーの目線は向かいの文具店、
色あせた布のひさしが入り口を覆い、
「一見何の店か判らない処が良い。」と言う事で、
目標の店の入り口へ立つと、
ショーウインドーの中が埃にまみれて、
飾ってあったルーペが下に落ち、
奥では店番のおばあちゃんが居眠り・・
と好条件が揃い、
メンバー全員の目がらんらんと輝き始めました。
チームワークの手はず通りに、
一人がノートやルーペの話から入り、
最年配者がおばあちゃんと世間話をし、
他のものが二手に分かれ、
店内の奥のショーケースを探索、
「ここに在りそうだと」という合図が出たとたん
「このケースの中の万年筆を見せてくださ~い。」
この一言で、おばあちゃんの様子が変化した。
めったに来ない客が、
それも大人の男性ばかりが5人も店を占拠している、
店にとっては非常事態だ。
不安になり、近所の親戚にでも連絡をしたか、
すぐに電話をかける行動に出た。
たちまち、不在にしていた店のご主人や、
娘さんも登場する事となった。
狭い店内が、総勢十人近くの人で埋まった。
我々の要望に対して、様々な障害物を掻き分け、
(店奥は普段使わないので、ダンボール箱等で埋っている場合が多い)
埃を被った奥のショーケースに辿り着いたご主人が、
「このケースは随分と開けていないので、開くかなあ~」
我々の期待は膨らむが、
反対にご主人は面倒くさそうに呟きながら鍵を回すと、
「こりゃあ、鍵が錆びてて動かないぞ。」
ここで空かさず、メンバーの一人が
「自転車の油とか、クレCRCとか、使えば大丈夫ですよ!」
などと巧みな誘導で、しぶしぶながらのご主人に、
無理やり開けてもらったケースの中には、
メーカーの小箱に詰まった万年筆が続々と現れました。
どれもほぼ未使用で、試し書き程度の極上品ばかりです。
まるで宝の山を掘り当てた時の様な興奮が、
メンバー一同に感じられました。
しかし誰一人として、
手放しでその喜びを声にする者はいません。
さすがに、日頃の訓練で鍛えられている精鋭部隊の面々は、
次の場面に入った状況を、全員認識していたのです。
買い付け交渉の始まりです。
「折角出してもらったけど、このシルバーの万年筆は、
かなり錆ているな~」
「この種類はたくさんあるけど、今じゃ買う人は少ないでしょう」
「せっかく、いっぱいあるけど、もったいないね~」
などと、相手の心理を揺す振る言葉が、
飛び交い始めるのでした。
反対に、今まで警戒をしていた店側のチームは、
ここまで来たら、この際めったに来ない、
高額商品を買ってくれそうな客と認識したらしく、
「お客さんたちは、はるばる遠くの北海道から来てくれたし、
万年筆がお好きなようなので、特別に割引をしましょう!」
ということになり、形勢はたちまちに逆転し、
買い手市場になったのです。
各人好みの万年筆を手に取り、
夫々交渉の結果は大満足だったようです。
しかし、全員顔の表情には出さず平静を装い、
無事買い物を終了しました。
店を出た一同は、尚も用心深く、
店からかなり離れた場所までその喜びを我慢して、
やっと安全圏まで来たという確信を得られた処で、
お互いの健闘を讃え、大喜びで狂喜乱舞致ししました。
こんな事をしている人達は素直では無い、
人間性に問題が有ると誤解されそうですが、
実はこういうやり方をしないと、後の人が困るのです。
店の人にとっては、むかし高価で仕入れた万年筆が、
今でも定価で売れるとなると、
中々手放したく無くなるものです。
そうすると、代替わりした時に後を継ぐ若い人は、
逆に、売れない在庫として廃棄処分をし兼ね無いのです。
日の目も見ずに、使用されないままでは、
万年筆がかわいそうです。
年代も経て、確実に劣化している物もあります。
是非在庫をまだ抱えているお店のご主人達には、
店先のショーウインドに並べて下さい。
それが我々の希望です。
また売って戴いたお店には、感謝のお返しとして、
我々は「山菜採りルール」を適用させて頂いております。
気に入った万年筆がたくさん有っても、全て買占めはしない。
同じ目的で後日来た人にも、楽しみを残しておくのがマナーです
(大金を持っていたら分りませんが)。
こうして、「万年筆探索の旅」は続くのでした。まだまだ続く・・